何故外廊下に面している部屋があるの

現代の日本マンションの最大の謎。

外廊下に直接面して部屋の窓があるのはどうしてだろう。
多くのデベロッパーは羊羹割と称してマンションの戸割を行う。
文字通り、羊羹を切るときの要領で、ザクザク細長く切っていく。
分厚く切れば、贅沢な(間口の広い)住戸になり細く切れば安上がりな(間口が狭い)住戸が出来上がる。

それを設計事務所に強要し、設計事務所もはいそうですか、と安易に企画し提出し続けてきた。
私自身もそうだった。
そうして首都圏ではかつての公団住宅UR等を除いて羊羹の陳列マンションが次から次へと出来上がった。
今じゃ、外廊下に窓がついてても誰も何も言わない。開けると外を通る人から奥まで丸見えになるような窓がついている。

これじゃ笑い話にもならない。
そこまで日本人の共同住宅への期待は落ち込んだのだろうか。

かつて60~70年代に多感な時期を過ごした子供たちは丹下健三を夢見て建築界に飛び込んできた。
文字通りの難関を突破して、だ。
そして考えた。共同住宅の設計とは何かを。
要点は唯一つ。プライバシーを守り、快適な変化に富んだ空間のシステムを作る事だ。
コルビュジェを始めとして多くの海外の共同住宅が参照され、メゾネットは当たり前。半階ずらしたメゾネット等多くのアイデアが若い彼らの頭の中で考案され続けた。

そして数十年が経った。期待を込めて未来を見つめる眼で現在を見るならば、陳腐化された最悪のパターンが累々と積み上がっているのに気付くだろう。

何故かくも無残なことになったか、答えは購入者と提供者の心の中にある。
より高い文化レベルを目指さなかったから。
箱はあってもそこには考え抜かれた知恵とアイデアが無かった。
売れればよい、売れれば正義なのだ。

そこで数十年も経ってから、今更ながら出現する事の無かった、外廊下に窓が面していないシステムとは何かを考えていく。

6×12mの住戸があれば安心して開けられる窓のついた壁は全周長の1/6に満たない事に気付く。南側のバルコニーに面した1面だ。これは戸建ての1/2に比べると約1/3。これで、戸建てを超えるコンセプトもなにもないものだ。

下記に解決案を示す。通常メゾネットは100㎡程度なければ良いプランにはならない。これは戸建てを見れば分かる。ただコンクリートで作る住宅で割高となる事を考慮すれば80㎡程度で抑えなければならない。

提案1)中廊下メゾネット型共同住宅
ファイル 59-1.gif

長所:周長に対する有効開放率約1/4。全ての窓のプライバシーは保たれている。

欠点:階段が中廊下を渡る為、リビング階の平面がおたまじゃくし型に変形しプランし辛く、奥に空気が澱む雰囲気が否めない。
上下の住戸面積がほぼ半分ずつ。これはバリアフリーという観点からも、また広い空間を体感したいという考えとも矛盾する。

提案2)片廊下メゾネット型共同住宅
ファイル 59-2.gif

周長に対する有効開放率約1/5超。提案1の欠点を最小にしている。
空気の通りも問題なし。形もより平易でプランしやすいし広がりも体感できる。
ただし1部屋だけ外廊下に面する。折衷的でありやや中途半端か。

そしてこれは外廊下をさらに張り出したり、間に吹抜を作ってプライバシーを無理やり保とうとして部屋が真っ暗になってしまった事例とは無縁である。下記参照。
ファイル 59-3.gif

提案3)片廊下メゾネット上下振り分け型

ファイル 59-4.gif
ほぼ理想的かつシンプルなのでプランしやすい。有効開放率約1/4超、ただし住戸面積が大きめになるのと効率が悪い事が難点。廊下は2,5,8階の3階ごとになる。

提案4)中廊下メゾネット2戸+平住戸タイプ1戸の組合わせ型

閉鎖的な中廊下に2ブロック毎に吹抜を設け、それに面してメゾネットの玄関があるタイプ。
ただ今図面製作中。

以上、遅れてきた提案。建築家としてはタイムスリップしているみたいだ。
それでもついぞ見ることの無かったあるべき建築タイプへの鎮魂歌でもある。
上記の各図面画像は全て■上野資顕・空間システム(有)の著作物です。無断転載使用を禁じます。