ペーパーアーキテクトの群れ

ここで言う「ペーパーアーキテクト」とは別に、紙で建築を作る建築家という意味ではない。
ペーパードライバーと同義語で、一級建築士免許を取得し、現に有効な免許を保有しているものの、普段建築の設計をすることがない者や、設計する機会が無い者をいう。

一級建築士事務所を開設しているものの実際の建築設計業務はやった事が無い。
10年間一度も確認申請を出していない。
従って構造、設備事務所とも組んだ事が無い。
どうやって設計業務を進めたら良いのか分からない。

それでも長い人生、ペーパーアーキテクトに設計の依頼が来てしまう事もある。
依頼者はまさか事務所開設者にその能力が無いなどとは到底思わないからだ。
かくして多くの悲劇が生まれてきた。

施工能力の無い施工会社というのも聞くが、これは上に能力のある別会社をつければ何とかなる場合が多い。
設計能力の無い設計事務所は、別会社が上につくことを固く拒否する。
かくして悲劇は助長される。

有名事務所にいたから、大手建設会社にいたから、大手不動産会社の設計部にいたから、有名大学を出ているから、
理由は多々ある。
プライドだけは高いペーパーアーキテクトは大きな仕事を断れない。
影でこっそり経験豊富な知り合いの助けを借りる。
充分に力を借りるものは稀で、自らを冷静に判断し、頭を下げて必要な知恵と力を得るものはごく少数派だ。
極稀だがそういう者は成功への道が開けている。

しかし多くは自らの体裁と名を守ろうとし殻に閉じこもる。

依頼者は疑問を抱きつつ設計は進み、建設会社はより確信的な疑いを抱きつつ工事に突入していく。

本当にこれでいいんでしょうか?
具体的な設計内容の相談が来る時がある。
私にセカンドオピニオンを求めている。
見ると間違いだらけ、建築を納める事が出来ていない。
つまり建築に必要な基本的な詳細収まり図が考慮されていない。
構造事務所と組んだことが無いから、そもそも梁や柱が設備や意匠とどう関連するのか理解出来ないのでほったらかし。

すると、そもそも建築にならない。
工事会社は設備業者と相談しつつ設計者には黙って変更していくしかない・・・。

それ以前の問題がある。
そもそも企画設計が出来ない。建築法規を理解していない。

PC無しには到底計算不能なほど高度で複雑怪奇となってしまった現在の建築の形体制限。
今の建築士資格試験ではそれを問う事が出来ない。

まさか試験場にコンピュータとソフトを持ち込むことを許可できないからだ。
天空率、日影計算、道路斜線という法律はもとより
高度斜線、避難通路、窓先空地といった地方条例、指導要綱を知らない。
ましてや消防法、設備、電気工事との取り合い収まりなどは夢のまた夢となる。

ペーパーアーキテクトはプライドが高い。
昔の優秀な最高学府の出身だからだ。そう大昔の・・。
プライド故に自らの足りない部分を認めようとしない。
昔から伸びるのは素直な者と決っているのに。

建築設計の依頼をする人は我々を良く見極めて欲しい。
本物の実力と独自の実績を持っているかどうかを。

多くの経験と実績を積むことは大変難しい。
何故ならそれ以上の営業努力が必要だからだ。

建築家と営業行為ほど釣り合わないものはない、
そう思っているペーパーアーキテクトは多いはずだ。

でも考えて欲しい。
本当に力を世に示したいのなら、あらゆる業種で
自分の作品を持ってアピールしない業種など無いことを。
漫画家、作家、音楽家、画家、写真家、デザイナー、クリエイターは全て認められるために全力でぶつかっていく。

それ無しにはただの自称〇〇家に過ぎなくなるからだ。