卒業制作

引っ越しをした際に大昔の梱包されたままの荷物の存在が分かった。
触れると、包んでいた蒼いビニール袋は破け、ぱらぱらと過ぎた歳月のように落ちていった。
人には取り返せないのに忘れられない古い思い出がある。
卒業制作は私にとって古く苦い思い出だ。
留年を繰り返し担当の穂積教授から、早く卒業しなさいと言われ続け

ようやく消しゴムのカスだらけの図面類をばらばらのまま、研究室に持ち込んだ。
迷惑そうな事務員の顔、下書きの線がほとんど残り体をなさず、
眩い高層棟の夕日に照らされて、みじめに薄れていく図面達。

消えそうな闘志をかき集めて必死に毎日線を引き続けた。何かを残したかった。
結果はノーコンテスト。卒業が遅れ過ぎていたし、教授たちも採点の為に集まってくれなかった。
卒業式も執り行ってもらえず、卒業証書1枚をもらう為だけの要件となった。
それでも毎日震えながら巨大な建築という社会と戦うための技術を磨き続けたあの頃の思い出。
当時は図面の遥か遠くから点を設定しそこから線を引いて描くのが一般的だったパース(透視図)を
図面の中に設定した点だけで自由に描き、パースから逆に平面断面を起す方法を考案していた。
当時を知る限り周囲の誰も使っていない技術だった。

その手法で数千枚のスケッチを描き、その集大成が卒業制作のはずだった。
けれど大学では誰一人顧みてはくれなかった。
就職先ばかりを尋ねられ未定の私は拠り所のない惨めなプータローだった。
将来への不安で自己が爆発しそうだった。そんな思い出の品。
それでも最後の最後に私を引き上げるきっかけとなってくれたこの品。
ご笑覧頂ければ望外の幸せ。遠い遠い過去ですが。


正面から見た市民ホール外観。交差するピンウィールのイメージ。

別の面からみている。

上の部分拡大。
シティホールの外観。ポールルドルフの影響が強い。
全部ロットリングというペンで描いている。


市民ホールのエントランス。

上と逆方向を見る。海洋生物の泳ぐ姿がモチーフ。

多目的ホール。押し寄せる波がモチーフ。
これもポール・ルドルフとエーロ・サーリネンとフランクロイド・ライトの影響が強い。
内部パースは光と影をペンのスピードと力の加減で表現する技法。たった一本で描いた。
これもオリジナルテクニックだと思っている。
このパースから逆に平面と断面を起している。