RC造平屋-1

マンション5階の西側の窓、遥かに広がる美しい夕焼け空を見ながらふと思う。

このままこの古ぼけたマンション暮らしでいいのだろうか?
長いこと公団型のマンションに住んでいた。
建物を見た人はほとんどが公営の団地だと思ったそうだ。
これでもかつての大成プレハブが建てたれっきとした分譲マンションなのだ。

バブルが終わってさほど年数がたっていないころ、勤めていた会社を辞め独立しようとしていた。
結婚もしたばかりだった。
ローンを組めるのは今の内だ。これから先どうなるか誰にもわからない。
家だけは確保しておこうと相成った。
月月の支払から逆算して予算が決まった。当時の年収と貯金から買える上限額はおのずと決まった。
関東のマンションを時計回りに探していった。当然9時の方向から始めた。
新築は到底無理だった。回り始めた時計が3時の方向を向き中古の選択肢でようやく止まった。
それが今、住んでるマンション。エレベーターなしの5階建て。
当然お山の大将になりたいから最上階角部屋の一番の部屋になった。
たまたま売りに出ていた。
廊下に面する部屋がなく、北側の眺望が開けていることも選んだ要件の一つだった。

そして時がたち苦労してローンを払い終えてふと思った。
これでいいのか、ここで一生を終わるのか?
もっと年を取って、この後体が動けなくなって、老人専用の狭い狭いサ高住などに入りそこを終の住まいとするのか。

そんなことも考え始める。

自宅を建てたいから相談に乗ってほしい、近所の病院の院長から相談を受けたことがある。
やはり御多分にもれず、入院施設のある最上階の白い部屋に住んでいた。
公園からの風が心地よい。白いカーテンが風に揺れている。

その時、彼は言った。
地に足がついた生活がしたい。

私もちょうど今そんな気分だ。
窓を開け足を踏み出したい、その向こうに地面がなくてはいけない。

もしかしたら人間の根源的な習性なのかもしれない。

親父が亡くなって12年が経ち、母も施設に入って3年がたった。

子供の頃20年近く暮らしたことがある実家が残ってしまった。
駅から遠いのでしばらくはほっておいた。でもいまさら全く知らない所に引っ越して住みたいとも思わない。

ボロボロの家が私を呼んでいた、帰っておいで懐かしい場所に。
そう親父が囁いたような気がする。

家は人が住まなくなるとあっという間に傷んでしまうと聞いていた。
実際その通りになった、虫が入り込みカビがはびこり、雨漏りさえ始まっていた。
たくさんの小物たちが家中を占拠し思い出を主張していた。

そうだ私は建築家なのだ、でも学生の頃決して住宅だけはやるまい、そう決めていた。

なぜなら個人の住宅は儲からないから、小さいから、個人にべったり張り付いて最後まで面倒を見る、
人付き合いの悪い私にはとてもできそうになかった。

それに住宅のプランはマンション設計等であまりにもたくさん作ってしまった。
どれを見ても過去に自分が作ったどれかのパターンに当てはまった。
なにせ何万通りも作ってしまったのだから。

だから自分の家は今やってる仕事と同じように基本設計で止めることにした。
後はハウスメーカーに全部頼もう、そう考えていた。